2020年10月01日

浅草の女1-4

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 彼女の枕元には着替えた征丸と、文吾が座していた。
「まさか、本当に氷が融けるとはな…」
 文吾に呼ばれた男性医師は、客間の布団で眠る女を見て驚嘆した。彼女を挟んで征丸の向かいに座る。
「氷が融けた時の彼女の様子は?」
 正面の征丸ではなく、その隣の文吾に訊く。文吾は簡潔に答えた。
「かなり咳き込んでやしたね。喉もヒュウヒュウ鳴ってやした」
「他に気づいた事は?」
 と医師は征丸に訊ねる。
「少し震えてたな…。気ィ失ったら震えは収まったが…」
 征丸は気遣わしげに彼女を見つめた。彼女は双子たちの用意した布団の中でこんこんと眠っていた。
「脈を診よう。失礼するよ」
 医師は掛け布団を捲って彼女の手首を取った。手のひら、手の甲とひっくり返して軽く触診してから、手首の動脈に指を当てる。
 静かな時間が続いた。
 双子は文吾の指示で床に広がった水を甕に回収していた。
 元々がいわく付きの氷だ。4人分の成人男女の体液となればそのまま側溝に流す訳にもいかず、一旦第7で保管する事となった。彼女から事情を訊いた後に彼女に託すか、第7でしかるべき供養をしようと征丸と文吾は話し合った。



 医師は彼女の手を戻すと、布団を掛けた。頷く。
「脈も呼吸も正常。主だった病気はなさそうだが少し水分が足りないね。起きたら白湯を飲ませるといい。詳しくは彼女が起きてからまた診察しよう」
「ありがとうございやす」「…」
 文吾が頭を下げた。征丸も無言ではあるが頭を下げる。
「おや」
 しおらしい征丸に医師は眼を瞠った。クスクスと笑う。
「“浅草の破壊王”も所詮は人の子だったという事か」
「うるせェよ」
 征丸は医師に睨みを利かせた。しかし医師はますます笑った。
「ハハハッ。そんな顔をしてたら彼女に嫌われてしまうぞ?」
「チッ」
 征丸は舌打ちした。医師からプイッと視線を逸らす。この医師は有能過ぎるが故に、弁が立つ。征丸の苦手なタイプだ。
 文吾は医師を見送るために客間を出た。
「…」
 征丸は彼女と2人きりになって、そっと手を伸ばした。彼女の頬に触れる。
(温かくて、柔らけえ…)
 指の腹でスリスリと撫でる。自然と目尻が下がった。優しい笑みを浮かべる。
 詰所の玄関先で医師に付け届けを渡してきた文吾は、穏やかに微笑む征丸を縁側の障子の陰から見て、そっと踵を返した。双子のほうへ向かう。
(あの利かん坊が、あんな顔をするようになるなんてなあ…)
 恋の威力の凄まじさよ。文吾は我が事のように喜んだ。口許に笑みを浮かべる。どおりで自分も年を取ったワケだなぁと実感する。
 折角の若の浮いた話だ、できる事なら綺麗にまとめてやりたい。
 だが。
 彼女から色々と事情を訊く必要がある。それによって、彼女の処遇はもちろん征丸の進退も決まる。
 浅草に害をなすようならば、身を挺してでも征丸を守らなければならない。
 文吾は気を引き締めた。

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posted by 偽名師 at 19:41| Comment(0) | 浅草の女 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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